Past Exhibition
BLOW
2024.3.2 - 3.11 YUGEN GALLERY, Tokyo
ブロウ−鳴り響く色、吹き交わる形
即興演奏のように放つ線と色
サックス奏者としての顔も持つ画家、岩川真澄。感情をキャンバスにぶつけたようなダイナミックな形象と鮮やかな色彩対比で描かれたアブストラクト・ペインティングに心を閉ざしたような表情を浮かべる人物画、はたまたポップアート的手法で描かれる幻想的イメージ。即興演奏のようにさまざまなテンション、感情の揺らぎに身をまかせるように描くモチーフ、作風から作家のバイタリティが伝わってきます。
「筆を走らせる、色をのせる時の血が騒ぐ感覚はSaxphoneを演奏することに通じるものがある。アーティストとしてのスタイルは音楽から得たものが大きい」と話すように、痺れるほどの波動の中で放たれる色、迷いのない旋律のように引かれる線は音楽を感じさせます。描き下ろし作品を中心に約20点を展示。YUGEN Galleryは4月に移転となり、本展が現ギャラリー最後の展示となります。
時空を越える芸術を探す旅
岩川真澄は高校生の時、広島を拠点に活動するサックス奏者・清水末寿のライブに「吹き飛ばされ」ジャズミュージシャンを志します。音楽大学に進学したもののジャズを学べる環境でなかったことから早々に中退、清水末寿に師事します。
音楽活動のいっぽうで所属していたバンドで岩川が手がけたCDジャケットの絵が話題となり、地元広島の飲食店などに飾る作品からビルの壁画まで描くようになります。色を組み合わせ、線を紡ぎ重ね合わせる表現に音楽とは違う刺激、解放感を感じ絵画にのめり込んでいったといいます。
絵画の世界で勝負したいと思い、2013年単身渡米。アメリカ・ニューヨークでアンディ・ウォーホルが所有し、ジャン=ミシェル・バスキアも住んでいた部屋をアトリエにして画家として活動を開始します。
「この時に初めてバスキアの絵を見て本人に会えたような気がしたんです。彼が生きた瞬間に立ち会っているような。生命を吹き込んだ作品が何千年後かに生きる人を感動させ、心を通わす事が出来るかもしれない。時を超える果てしない芸術の世界に魅了された」
「絵を描くことは冒険。向かうのはひとつの方向だけでなく、進んだり戻ったり、見回して揺れながら見つけたり失ったり。そんな冒険にワクワクしている」
以後、岩川はアメリカを拠点にしながらヨーロッパやアジアを旅します。訪れた土地の人々、気候風土や動物といったあらゆるものとの心を開き合う体験にインスピレーションを得る旅は創作と常に深く繋がっています。
特に2017年から拠点にしたドイツ・ベルリンでは現地の人との交流から「辛く悲しい暴力の歴史」について直接話を聞く機会もあり、広島出身である岩川は多くのことを感じたといいます。また、さまざまな人種が行き交う社会での不条理を目の当たりにすることもあり、アメリカにいた頃の明瞭でコントラストの強い配色は、この頃から深い色遣いに変化し、それまであまり描かなかった人間をモチーフに、「感情が読み取りにくい表情」を浮かべた肖像画を描くようになりました。
感情を揺さぶるかたちなきもの
2019年、日本に帰国してからは元来興味があったという線表現や色層を作ることへの関心が高まり抽象表現に注力。「意味されているもの、表されているもの」との意味をもつ「signifié(シニフィエ)」をタイトルにした2022年の個展以降、「目に見えないけれど存在しているもの。それに触れたときに心を動かされ、掬い取ってキャンバスにおいていく」感覚を大切にしていると話します。同年には出産も経験。「妊娠中から感じた生命の神秘、未完成の生命の美しさや力強さ」が画家・岩川にとって新たな息吹となりました。
「抽象、具象に囚われることなく言葉になる手前のありのまま」の表現への純度が高まっている今、開催される本展「BLOW」。岩川が絵を描くことを通して感受する自らの息吹は、サックスのブロウのように観る者の感性を揺さぶる激情となって出現します。
signifié
2022.4.19 - 4.24 Gallery G, Hiroshima